【「社会」と「普通」ーアートからいちばん遠いところにあった二つの言葉】

 

鷲田清一さんの新刊、『素手のふるまい アートがさぐる〈未知の社会性〉』。

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まだ序盤しか読んでないけど名著なのは間違いないので、気になった部分を抜粋しておきます。

 

--------------------(以外抜粋)

「社会」と「普通」は、アートの世界からはいちばん遠いところにある二つの言葉だった。

ところが、これらの言葉がいつの頃からか、アーティストのセルフ・プレゼンテーションのなかに散見されるようになった。

わたしの貧しい記憶をたどって言うのだが、表現論においてこの二つの言葉をはじめて全面に押し出したのは、1990年代の川俣正だったのではないかとおもう。

(中略)

 

「綺麗なもの」、「美しいもの」はもういい、それよりも「つねにその場で起こる実際の物事を通してでしか答えられない事柄の中に、アートの、あるいはそうでないものの新たな関係を組み立てること」。

ムードやイメージで同時代を語り、表現するのではなく、アートからうんと距離のある《普通》の場所で、「この時にこの場でしかできない」ことに取り組むこと。

 

他の人たちが抱え込んでいるのとおなじ問題に、おなじ場所から、しかし別のまなざしを挿し込んで、そこから別の「リアル」を立ち上がらせること。

川俣はこれを「サイト・スペシフィック」な行為と名付ける。

---------------(抜粋終わり)

 

サイト・スペシフィックという言葉は、芸大にいたころも良く耳にした。

 

だけどわたしは、《美術大学》や《アートと銘打った企画》のなかで起こるものごとは、一切《サイト・スペシフィックなんかではない》と思っていました。

 

なんでかと言うと、人間って《所属している組織がある》とか《帰る場所がある》って思った瞬間に、ものすごく自分に甘くなるから。

 

確かに人生においてリスクヘッジは重要なことだ。

 

でも、それが良くない方向に作用するとろくなことにならない。

 

外に出て普段会わない人と交流して何かを成しても、いつかは《大学》や《アート業界》という《安全な場所》に帰れる。

 

その甘さを捨てて裸一貫で飛び込んで成果を出す、という意気込みがない限り、その人のやったことは真の意味でサイト・スペシフィックな行為にはなりえない。

 

お客さま扱いされてなんとなく持ち上げられて終わり、だなんて、アーティスト側にも受け取る側にも良い結果はもたらさないでしょう。

 

だからわたしは大学院に行かなかった。

 

自分の中の甘さを捨てられないと、誰のことも救えない。

そんな自分は絶対に許せないと思ったから。

 

で、アートの世界から離れて美容の業界に入ると決めた。

ある意味、アート(美術)と美容は似ている。

 

《美》という原価のないものに値段を付けるのにはとても複雑なロジックが必要で、条件がそろえば、とてつもなく高額な商品にもなりうる、という点も同じだから。

 

《美》を《お金》に変換する《商売人》というのは、いわば錬金術士。

わたしはその錬金術に魅せられていたので、2年ほど美容の修行をしたあとさっさと個人事業主になって小さく起業し、自分の店を作った。

 

自分の錬金術でももって《美》を売るのはとても面白い!

 

そして、やはり自分の場所を作ったからにはサイト・スペシフィックなことをしないではいられない。

 

そして、去年の末に自分にある約束をした。

『来年は、一年で4つ美術作品を買おう。
そしてそれを季節ごとに店に飾って、お客さんにどんな影響があるか試してみよう。』

と。

 

で、何とか経営もまあまあ順調に進み、お金の問題をクリアできたので本当に4つの美術作品を買うことができた。

 

店の利益を爆発的に上げることはできなかったが、
とりあえず赤字ではないこと、自由にのびのびと働けていること、
そして作品を一年で4つも買えたことにひとまず満足している。

 

わたしは美容業界に、アーティストとしての感性をどんどん注入して新しい価値を形成したいのです。

 

そのためには、これからもっともっと大きなお金を動かせるような自分にならなきゃいけない。

 

ならば必然的に、お客さんにもっと支持してもらわないといけない。

 

ハードルはどんどん上がるけど、越えれば越えただけお金の流れが大きくなると知ってる。だから頑張れるんだ。

 

アートとは、業界の中の小さいコミュニティに押し込んでおいたらいずれか腐ってしまうものだと思う。

 

なぜなら人間と同じく、常にナマモノだから。

わたしは自分自身も自分の作品も腐らせたくない。

 

だから徹底的にサイト・スペシフィックな生き方にこだわっていくよ、これからも!