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朝の目覚め。真っ白な天井をみて、ベッドから降りられないあなたのために。

今年は2016年。わたしは27歳になっている。


同い年の友達が2人死んで一年が経った。

先生と助手さんが死んで五年が経った。

父が死んで十年が経った。

わたしが思い描いていた未来の多くは、彼らがいなくなって永遠に手の届かない幻になって消えた。


それでも、わたしはいまでも彼らの夢を見る。

この間も、夢のなかで友達と話をした。
先生とも、父ともよく話をする。

彼らが生きているときに話したかったことや、もっと見ていたかった眼差し、覚えておきたかった仕草…。


それらを夢のなかで追いかけて、わたしは幸せな気持ちになる。


ああ、よかった、みんなまだここにいてくれたのか…。

でも、夢は夢だ。いつかは覚めてしまう。


目が覚めて、わたしの鼓動が大きく一度脈打つ。

目の前には、真っ白な天井が広がっていた。

左に首をかしげた。そこには、いつものわたしの部屋の風景。白い壁に、パソコンと机があって、服がかかっていて、ただそれだけ。

突然、目の前から色が全て消えてしまった気がして、わたしは動けない。


そうか、夢だったんだ。


でも、夢ならまた眠れば会えるかもしれない。

そうだ、また眠ればいい。大好きな彼らのことを考え続けて、ベッドから出ないでこのまま眠ればきっとまた会える。
それでいいじゃないか。会えるのだから…。


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そんな憂鬱な気持ちで目覚めることが増えたのは今年に入ってからだった。

悲しみのリミッターというのは不思議だ。
いままでなんともなかったのに、ある日突然、死んだ人を思って動けなくなってしまうんだから。

それでも、わたしには自分の仕事がある。息子だっている。
どんなにベッドから出たくなくても、起き上がって生きなきゃいけないんだ。


体は無理矢理うごかせても、心がついていかなかった。


「どうにかならないものなんだろうか。」


いつも死んだ人のことばかり考えて、目の前の世界の美しさや喜びに気づけず、わたしは歳をとっていくんだろうか。


とにかく、日々が本当に憂鬱だった。


これから先、自分が死ぬまでは、きっと何人もの大切な人との別れを体験しなくちゃいけない。

わたしの心は、人との別れに慣れるということがない。
こらからも、何度も何度も傷ついて、悲しくなって、目覚めたくないと思うだろう。


だめだ、とても生きていける気がしない…。

 


そんな気分が続いていたある日、また同じように真っ白な天井の部屋で目覚めた。

いつもと変わらない白い壁に、殺風景なものの配置。

だけど、なんとなく、それまでの自分の部屋とは違う気配がした。

「あっ、そうか。光だ。」

長い雨が続いていたあと、久々に晴れた朝だったのだ。

窓から差し込んだ朝日が、向かいの白壁に反射して和らかく部屋を包み込んでいる気がした。

それをみて、わたしは、なんとなくだけど今日は生きることを許された気持ちになって。

本当に久しぶりに、自分の意志でベッドから立ち上がることができた。

 

それからというもの。

 

わたしは、自分の意志で今日一日を生きるために、たくさんの絵を描いた。

描いたのは、《光を何倍にも増幅させる絵》。


ほんのすこしの朝日でも、絵を通して部屋を何倍も輝かせてくれるような、そんな絵がたくさん必要だった。

思い立ってからは、色々なひとのことを思って描いた。


これは、亡くなった友達2人の魂が宿ってくれるように。

これは、先生とたくさん絵の話ができるように。

これは、湖に沈んでいった助手さんの見た景色をわたしも観られるように…。


そのようにして、1つ1つに祈りの気持ちを込めて描いた。

いつのまにか、わたしの部屋には大小さまざまな絵がびっしりと敷き詰められていた。

 

いつまでもわがままでごめんなさい。


わたしはまだ、この世界のなかであなたたちと生きていたい。

夢のなかだけでは悲しすぎるから、この世界で、どうかわたしと繋がっていてほしい。


だから、その気持ちだけを取り出して、絵に宿した。

「そうか、きっと人間ははるか昔から、こんな気持ちで絵を描いたりものを作ったりしてきたんだ。」


いままで作ってきたもののなかで、これが過去最高の自己満足作品だ。

わたしがわたしのために、

ただ目覚めるその一瞬のわたしのためだけに作った絵。


わたし以外の人には全く価値のないものでもいい。
これは一生、わたしの心を支えるものだから。


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いまや、わたしの部屋は朝になるときらびやかな黄色い光に満たされる。


目が覚めたとき、もういない大切な人たちと挨拶ができるような気がして、毎日あたたかい気持ちでベッドから降りる。


悲しみのあまり動けない人がいたら、
なんでもいい。

なんでもいいから、
自分の大切な《誰か》、《何か》との繋がりを目に見える形で存在させてあげてほしい。


人は頭と心と思い出だけでは生きられない。とてもとても、弱いものだから。

すごくシンプルに、わたしたちはただ、この肉体を持って生きている。

そして、この体は心と繋がって、生きていない人とも繋がっているのだと思うんだ。


どうかそのことを忘れないで。


どんなに辛いことがあっても、真っ白な天井に心を引き裂かれてしまわないように。